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Taguchi Art Collection - CORRELATION DIAGRAM OF HAPPINESS しあわせの相関図

やはりひとの趣味の世界というのは語り難い。すでに個人の世界に取り込まれているから、こう見てくださいということである。仏身、観世音菩薩、娑婆、浄土、餓鬼、畜生。「Taguchi Art Collection - しあわせの相関図」の世界は、これらの言葉で成り立っていると暗に言っているのである。当たり前と言えば当たり前である。1937年生まれの当コレクションの主、田口弘は八十才は硬い。奈良美智/NARA Yoshitomoの大きな女の子の絵。これは注文をしたように左右対称である。これを何だと言うのは野暮である。ライアン・マッギンレー/Ryan McGinleyの黄色の花の咲く野原を歩く裸の青年。これも止そう。会田誠/AIDA Makotoの”灰色の山”は本人の意図かどうかはわからないが、”色”という字を抜いた画題は”灰の山”となる。遠目には灰色の山だが、近寄れば死屍累々の世界である。これは別の意味で触れる。気持ちに煩わしさがない。※
Taguchi-Art-Collection4.jpg最近のことである。まわりに自分も含め高齢者が多い身分となったから火葬場へ行くことが多い。お馴染みの光景だろうとは思う。棺が置かれ火葬直前の部屋で最後のお別れをする。その後、棺は炉の中に入れられ喪主が火をつけるボタンを押すのであるが、”ボタンを押す”部分が省かれていた。職員の指示で喪主とその近親者だけが炉の確認をしに出て行った。一人の親戚の者が少し怒ったような声で、どこで火葬されたか信用できないと言った。しかし、喪主が炉の確認をし、その炉のナンバー札をもっている旨皆に伝えた。みんな静まった。斎場の職員は深々と頭を下げた。省いたのは正に時間のことだろうとは想像はつく。後に聞いたことだが、骨を拾って骨壺に入れるが、どうしても全体は入りきれない。では、残った骨はどこへ行くのか。職員に聞いたそうだ。九州だから、ほど近いある県で大切に処分をされるということであった。なるほど、そこには会田誠の絵のように見上げるような大きな灰の山があるのだろうか。小泉明郎/KOIZUMI Meiroの三面鏡のつくりの動画の作品だが、こういう神経症的絵面は流行りなのかなとは思う。ホラーかバイオレンスムービーのイントロのようである。孫のような年齢の青年の作品に何を期待しているのかは、こればかりはわからない。他に、リネッテ・イアドム・ボアキエ/Lynette Yiadom – Boakye、リチャード・タトル/Richard Tuttle、デイヴィッド・ラトクリフ/David Ratcliffを展示。

以下は、オープニングセレモニーでの田口弘の三菱地所アルティアムでのあいさつである。このあいさつの本質はアメリカということである。この世代はアメリカンポップスで育った。だから、今もって和製の流行歌が聞けないでいる。部屋で流れるのは、いつもJazzである。1945年8月。何もなくなって、そこにあるのは突抜けるような青空だけがあったのである。今日のオバマの広島訪問も含めて、あこがれをもって呆然と立ち尽すだけである。

私は今から30年ほど前に、東京・新橋のとあるブティックの店頭にキース・ヘリングの絵画がずらっと並んでいるのを見て大変びっくりした経験がございます。そこで見たキース・ヘリングの絵は、「こんな絵を見たことがなかった」という初めて見る絵でございまして、新鮮でシンプルで非常に力強い絵だったというふうに記憶しております。そこでいたく感動して、以来、現代アートのコレクションを始めたという経緯です。
Taguchi-Art-Collection3.jpg当時は、アメリカからポップアートがどんどん日本に入ってくる時期でした。皆さんもご承知だと思いますが、アンディ・ウォーホルはキャンベルスープの缶詰やコカ・コーラの瓶、あるいはドル紙幣などのどこにでもあるようなものを素晴らしい現代アートに変えて、我々に見せてくれたわけです。ロイ・リキテンスタインはアメリカの漫画を芸術的な作品に変えて我々を驚かせてくれました。はじめに申しましたキース・ヘリングは、落書きを大変元気の出る絵画に変えて我々を元気づけてくれたということもありますね。このように現代アートの世界というのは、我々が想像もしないような新しいアイディア、あるいは新しい発想、そういうものが次から次に出てくる素晴らしい世界だというふうに考えております。※

※20016年4月23日〜5月29日まで三菱地所アルティアムにて行なわれたものである。
三菱地所アルティアム(イムズ8F)〒810-0001 福岡市中央区天神1-7-11 イムズ8F
TEL. 092-733-2050(10:00 - 20:00)
※田口 弘(1937年2月15日 - )は、岐阜県出身の実業家・現代美術コレクターである。
1959年に愛知学院大学商学部を卒業し、大竹農機(現大竹製作所)に入社。1963年に三住商事(現ミスミ株式会社)設立に参画し、1969年に社長就任。1994年に東証2部上場、1998年に東証1部上場を果たす。「購買代理店」「マーケットアウト」など斬新な経営コンセプトを打ち出し、ミスミ株式会社を年商550億円の商社に育てた。2002年に起業専業企業の株式会社エムアウトを設立し、現在は代表取締役社長。事業子会社には、中古ジュエリーの販売・買取を行う株式会社アイデクト、往診専門の歯科診療サービス株式会社メディパス、低カロリーデリショップを展開する株式会社カロリズム、スパ・リラクゼーション施設・治療院業界にプラットフォームを提供する株式会社クロスリンクの4社がある。株式会社クロスリンクでは、スパ・リラクゼーション施設・治療院で働く人のための情報コミュニティサイトひとさぽと、セラピスト・治療家のための専門求人サイトキャリさぽを運営している。
ミスミ株式会社時代より現代美術コレクターとしても知られ、主にアメリカ現代美術の作品を収集している。2002年に東京都現代美術館にて「WE LOVE PAINTING ミスミコレクションによるアメリカ美術」、2011年に損保ジャパン東郷青児美術館にて「GLOBAL NEW ART 現代アートをもっと楽しむために」と題されたコレクションを紹介する展覧会を開催。2010年にはコレクションをまとめた作品集「グローバル・ニュー・アート タグチ・コレクション」を出版した。

※仏身:仏の姿をいう。
※観音菩薩:観音さまと呼ばれ、昔から広く民衆に親しまれていて、観世音菩薩とも呼ばれる。
※娑婆:仏教において、我々が住む現世の名称。sahāには「大地」という意味がある。漢訳では「堪忍」という訳語が充てられることから、この世は、生老病死や人間関係、さまざまな欲望など、煩悩に耐えていかなければならない世界であるという解釈もある。そうしたことから娑婆と名付けられ、また、「忍土」「俗世」ともいう。
※浄土;仏教における概念で、清浄で清涼な世界を指す。
※餓鬼:仏教において、亡者のうち餓鬼道に生まれ変わったものをいう。餓鬼は常に飢えと乾きに苦しみ、食物、また飲物でさえも手に取ると火に変わってしまうので、決して満たされることがないとされる。
※畜生:苦しみ多くして楽少なく、性質無智にして、ただ食・淫・眠の情のみが強情で、父母兄弟の区別なく互いに残害する人間以外の禽獣虫魚など生類をいう。

<掲載作品>
※奈良美智”Cosmic”Acrylic on canvas,291.0×218.5㎝,2007(c)
1959年青森県生まれ。1987年愛知県立芸術大学修士課程修了。
1988年渡独し、国立デュッセルドルフ芸術アカデミーに在籍。欧米や日本で積極的に作品を発表している。2012-2013年には11年ぶりに国内で開かれた大規模個展「奈良美智:君や僕にちょっと似ている」を横浜美術館を皮切りに開催し、国内3カ所に巡回した。ニューヨーク近代美術館やロサンゼルス現代美術館などに作品が所蔵されている。2013年芸術選奨文部科学大臣賞を受賞。
※ライアン・マッギンレー”Mustard Meadow”c-print,121.3×182.3㎝,2007(c)
1977年アメリカ、ニュージャージー州生まれ。パーソンズ美術大学(ニューヨーク)でグラフィックデザインを学ぶ。
現在、世界で最も注目される写真家のひとり。2000年、自費出版した作品集『The Kids Are Alright』を22歳の若さで自主出版したのを機に、2003年に最年少でホイットニー美術館で個展を開催。 繊細な色合い、自由で過激なニューヨークの若者たちの姿を捉えた写真は、多くの人々の共感を呼んでいる。グッゲンハイム美術館、サンフランシスコ近代美術館をはじめ各地の美術館に所蔵されている。
※会田誠”灰色の山”on canvas,300.0×700.0㎝,2009-11(c)
1965年新潟県生まれ。1991年東京藝術大学大学院美術研究科修了。
美少女、戦争画、サラリーマンなどをモチーフに、奇想天外な対比や痛烈な批評性を提示する作風で、幅広い世代から圧倒的な支持を得ている。国内外での個展、国際展への参加多数。近年では森美術館で開催された大規模個展「会田誠 天才でごめんなさい」(2013年)が大きな話題に。小説やマンガの執筆など活動は多岐にわたる。
※小泉明郎”劇場は美しい午後の夢を見る”2010-2015
1976年群馬県生まれ。1999年国際基督教大学卒業。チェルシー・カレッジ・オブ・アート・アンド・デザイン(ロンドン)卒業。
国内外で滞在制作し映像やパフォーマンスによる作品を発表している。近年はアーツ前橋(群馬)での個展「捕われた声は静寂の夢を見る」(2015年)を開催。リバプール・ビエンナーレ2010(2010年)、メディア・シティ・ソウル2010(2010年)、第一回あいちトリエンナーレ(2010年)などの国際展にも数多く参加。2012年上毛芸術文化賞を受賞。


2016.5.31

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