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田中千智油彩画個展 2009「さまようエトセトラ」

田中千智/ 2005年 多摩美術大学 美術学部 絵画学科 油画科 卒業、1998年 九産大付属九州高校 デザイン科 卒業。1980年生まれ。現在、福岡県在住。

tanakachisato3.png黒い地のキャンバスが印象的である。その黒地は甘みを帯びてチョコレート菓子を思い起こさせる冷たいモノトーンではなく愛らしいのである。タイトルが表すように描かれた人や風景は夢の中の記憶を辿る残像ように映る。右の画題「白い女」に例えれば若い女性とは思うしどことなく艶を感じる白い色彩に目が行くのだが、血の気というものが無いようにも思える透明感が残るのである。画風から言えば、魂だけがその女のお面をかぶって目の前に立っているのである。または、そういうふうに見えたり見えなかったりする。上方「4人の女の食卓」という絵も錯視を誘う。確かに食卓らしきものを白い人の残像のようなものが囲んでいるのだが、どうしても題に反して枢を囲む4人の老婆に見えるのである。そのように空想に空想が飛ぶ世界を常に胸に秘めた作者がいるのであろう。展示の中で唯一華やかに思える画題は「宵の夢」あったか。レースのふんわりとしたスカートの装いの女の子の絵がある。およばれか。楽しそうなおしゃべりや食器の擦れ合う音などが聞えてきそうである。聞こうと思えば聞くことができそうだが、ここは夢の中である。聞こうとすると音がおしゃべりが逃げてしまう。聞いているような、そうではないようなふりをしてここは静かにしていようと思ったりもする。彼女は今宵、炎のようになりたいのである。放っといて。
tanakachisato5.png黒い地のキャンバスからは、そのコントラストで描かれた人やものは光りを放っているように見える。そして、その光りは廻りを照らすという役割ではなく、いずれも描き込まれた色彩の幾重ものレイヤーが混ざり合う残像のようでありその存在のかつての在処を教えてくれているサインのようにも映る。甘いお菓子のような記憶の断片もあるのだろう。苦さもあるのだろうか。こうして観覧する側もまた所在なげなお面となって街角で途方にくれ「雪の中で」方向を矢い炎につつまれたように光を放つ「赤い家」という建物やタワーのような「キヤンドル」がそびえ立つ訪れたことがあるようなそうでないような、かつて読んだ外国のノベルのあるページのような夢と現実の狭間の中の都市を彷徨うことになるのである。
ギャラリー入口に飾られた「未知」という黒い服のほっそりとした白い顔の女の絵だが、表情がいびつではっきりとせず存在そのものが消えかかりつつあるような変な魎力がこの絵にある。見る側としては気にかかるのである。帰り際に思わず振返りその女の様子を伺った。画風と言えばそれまでだが、気にかかる絵である。

tanakachisato4.png※2009年6月27日〜8月29日まで九州日仏学館にて行なわれたものである。多少加筆したが時間には勝てない。※アンスティチュ・フランセ九州は1975年の創設(当時:九州日仏学館)以来、35年以上にわたり、福岡とその周辺地域にフランスとヨーロッパを紹介し、また日本文化とフランス文化の交流を促進しています。フランス語講座や文化セミナー(“フランス流”生活芸術、ガストロノミー、美術史、映画セミナーなど)、フランス情報センターとしてのメディアテーク、また年間を通して開催される講演会、舞台、展覧会・・・さまざまなプログラムの中に、きっとみなさまがお探しの何かを見つけていただけることでしょう。アンスティチュ・フランセ九州、すべての方に開かれた、新たな発見の場、そして共感と交流の場です。ようこそ、福岡のプチ・フランスへ!
http://www.institutfrancais.jp/kyushu/

<引用出典>
http://www.tanakachisato.com
※4人の女の食卓The dining table of four women oil and acrylic paint on canvas(1121×1455)/ 白い女 A pale woman oil and acrylic paint on canvas(340×250) / 宵の夢 Evening of Dreams oil and acrylic paint on canvas(530×652)/ 未知 Inconnue oil and acrylic paint on canvas(530×455)/ 雪の中で In the snow oil and acrylic paint on canvas(606×727)



2015.9.13.

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