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HANATUBAKI 花椿
田舎の匂いを感じた。たぶん代々の土地柄の店が多いせいなのだろう。資生堂ギャラリーをたずねた。メインの展示は忘れたが、赤瀬川原平の彫刻のような作品を目にした。

B5サイズ、針金綴じで、わざわざ銅色の針金で綴じている冊子がある。つまり、B4二つ折り。マットな紙質で色白で写真映えががよい。うろ覚えだが、グラフィックデザイナーの初老の男が、一生ゴミ箱をテーマにしたようなポスターぐらいしかつくれないのかなと思っていたところ、資生堂宣伝部で仕事をすることになったと喜んでしまっている話しをどこかで読んだ気がする。資生堂のPR誌「花椿」はやはり専門誌なのかなと思う。先の初老の男は何を喜んだのか。これは誰が読むのか。考えてしまう冊子かもしれない。確かに化粧品売場には置いてある。以下は、本年の四月号巻頭に掲載されている詩である。※

服をたくさん捨てました
シャツもスカートも靴も鞄も
同情すると厄介ですから
黄ばんだセーターが笑いながら
私に飛びかかってきましたが
さっと身をかわして避けました

いっぱいのダンボール箱を抱えて
駅向こうのリサイクルセンターに行きました
繊維の情念が道みち腕に絡みついてきましたが
あせだくになって鬼の気持ちで
幹線道路の歩道橋をやっと渡りました

作業着のおじさんが待っていました
私の服の山を軽々と引き受けて 無口で
パンプスをいっそく私に戻して
これは、受けとれませんねと言いました
ぼろぼろすぎて、再利用できないからね

かみさま私は身軽です
片手にだめなパンプスを握りしめて
明日はたぶん新しい場所へ行けます※

少し前に九州から久しぶりに東京へ行った。銀座の大通りに田舎の匂いを感じた。たぶん代々の土地柄の店が多いせいなのだろう。資生堂ギャラリーをたずねた。メインの展示は忘れたが、赤瀬川原平の彫刻のような作品を目にした。※ ギャラリーの女性に聞けば、作家の自宅にあったダイニングテーブルを、彼女から聞いたその理由は忘れてしまったが、彫刻してつくったもののように鑿でけずって展示したということであった。芸術家は普通のひととはちがって余計なことをしてひとに哲学を強いる存在であるから、そのダイニングテーブルを見つめるよりいたし方はない。ギャラリーを後にした。

<引用出典>
※最上部及び頁導入部画像は、2015年、花椿誌3月号より。※「こちら、銀座 資生堂宣伝部 」/ http://www.shiseidogroup.jp/advertising/
※大崎清夏 詩人 2011年、ユリイカの新人としてデビュー。
詩集「地面」で第17回中原中也賞最終候補。2014年、詩集「指差すことができない」で第19回中原中也賞受賞。
※赤瀬川 原平(1937年3月27日 - 2014年10月26日)は、日本の前衛美術家、随筆家、作家。本名、赤瀬川克彦。純文学作家としては尾辻 克彦というペンネームがある。神奈川県横浜市中区本牧町生まれ。愛知県立旭丘高等学校美術科卒業。武蔵野美術学校(現武蔵野美術大学)油絵学科中退。2006年4月より、武蔵野美術大学日本画学科の客員教授を務めていた。

2015.3.17.

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